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月刊MMRC 『満足度調査による医療機関のベンチマーク』

0606mmrc.gif日本医業経営コンサルタント協会 月刊『MMRC』2006年6月号
株式会社ケアレビュー 代表取締役 加藤良平

 

 

 

株式会社ケアレビューは、医療機関の患者満足度をベンチマーキングする仕組みを開発している情報ベンチャー企業である。これからの医療界において患者満足度が医療の質や医業経営に与えるインパクトに着目したユニークな起業ビジョンや、利用医療機関での活用事例をご紹介したい。

 

医療の質とは

日本の工業製品の品質は世界一であり、自動車や家電製品などは世界最高の品質を背景に世界シェアを伸ばしてきた。このような品質改善を達成するためのバックボーンとなった考え方は、徹底した「顧客指向」にほかならない。すなわち、「製品やサービスの取引において、受取る側にその良さをわかってもらえなければ意味が無いという哲学が重要であり、たとえ提供する側のほうが製品・サービスに関する遥かに優れた知識を持っているとしても、知識レベルが低く無責任な受け手側の論理を尊重しなければならない」(飯塚悦功 東京大学大学院工学系研究科教授)という考え方である。

これに対して、医師や病院関係者から「医療の質」についての話を聞くと、多くの場合は臨床指標に基づく成績や医療安全対策に関する成果が強調される。もちろん臨床成績や医療安全は医療の質の根拠として欠かせない重要な指標ではあるが、それだけで果たして質の高い医療を提供していると言えるのだろうか?

 

日鋼記念病院の事例

医療法人社団カレスアライアンス 日鋼記念病院(北海道)は、国内の先進的な病院が参加するVHJ(Voluntary Hospital of Japan)機構にも加盟し、臨床指標やDPCデータを他の医療機関と比較分析することなどを通して医療の質を向上するための諸活動にこれまでも積極的に取組んできた地域中核病院である。

昨年ケアレビューのベンチマーク調査を実施した日鋼記念病院では、退院患者満足度のレベルが全国平均を上回ってはいるものの、全国トップレベルにある病院との格差をはじめて認識することとなった。「それまでは自分たちが提供する医療水準は全国トップレベルにあると思い込んでいたことを率直に反省し、医療の質は医療者の自己満足ではなく医療の受け手である患者や家族が評価するものだと認識を改めた」(林常務理事)ことにより、この4月に就任した勝木新病院長のもとで「患者満足度のナンバー1病院を目指す」という新たな戦略目標が加えられた。医師や職員の意識改革目標の中心に「患者満足度」が据えられたのである。

例えば、日鋼記念病院の患者満足度の構成要素の中で、患者や家族が重視しているにもかかわらず満足度が低い最重要課題だと判定された「退院時の情報提供」については、既に職種横断的な対策プロジェクトが立ち上げられて具体的な改善への取り組みに着手している。ケアレビューの科学的な情報分析によって、経営課題に優先順位をつけることが可能となった事例である。

同時に日鋼記念病院では「職員満足度」にも最大限に配慮する姿勢が明確に打ち出された。「職員が仕事や職場に満足していなければ質の高い医療を提供することはできない」との経営理念のもとで、かねてより充実した研修や福利厚生制度を整備してきた同病院ではあるが、職員満足度を他の病院と比較することや患者満足度とのギャップを分析することによって、組織運営上の課題を把握して早急に対策を講じるというさらに進化した病院マネジメントを追求する考えである。

ケアレビューでは、患者満足度調査だけではなく、医療機関の職員満足度の標準的な調査手法も開発し、全国の医療機関に対してベンチマーク調査への参加を呼びかけている。是非クライアントの医療機関にもご紹介いただき、経営改善に役立てていただければ幸いである。

 

健育会グループの事例

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医療法人社団健育会(東京都)では、独自に開発したバランスト・スコアカード(BSC)の導入を柱とした先進的なグループ病院マネジメントスタイルが確立されている。健育会グループが採用しているBSCには、「顧客」、「組織管理」、「教育研修」、「財務」という通常の4つの視点に加えて、「医療の質」という5番目の視点が加えられているのが特徴である。これは、グループ戦略上の最重要課題を「医療の質」と位置づけ、現場の医師や職員に浸透させるためにあえて独立項目として設けられたものである。さらに、健育会グループの情報管理システム上ではBSCに関するさまざまなデータが蓄積され、本部や現場職員に必要な情報がリアルタイムで公開・共有される仕組みが整備されている。

このように先進的なマネジメントスタイルを構築している健育会で、もっとも重要視されている指標が「患者満足度」であり、BSCの「顧客」の視点だけにとどまらず「医療の質」の視点の管理目標としても患者満足度が大きなウェイトを占めている。これは、「日本の医療は安価でそれなりに質の高い医療は提供されてきたものの、患者さんの満足は置き去りだった。」という竹川節男理事長の問題意識に合致するとともに、昨年NHKのクローズアップ現代でも紹介された米国のSwedish Medical Center(シアトル)のクオリティマネジメントノウハウを取り入れて設計されたものである。

グループ内の各病院では、グループ内外の病院との客観的なベンチマーキングによって利用者の視点による病院全体や組織別の課題を把握し、各現場の状況に応じたアクションプランの策定に利用者の声が適切に反映されている。そして、患者満足度の各指標も半年ごとに目標が設定され、本部が運営状況をモニタリングし、業績評価にも反映されるというPDCA サイクルが機能している。

ケアレビューの患者満足度調査は、医療機関のタイプ別に標準的な患者満足度調査手法と情報分析システムを開発し、できるだけコストを抑えて継続性のある評価指標を提供することができるので、BSCや目標管理指標としても最適である。医療機関への企画提案や結果報告をコンサルタントに委託するパートナー制度も導入し、クライアント医療機関の現状分析やコンサルティングにもご活用いただけるようにしています。

 

患者満足度調査の将来

本誌4月号のSpecial Report でも紹介されているように、日本よりもはるかに医療の自由化が進んでいる米国では、すでにCMS(連邦政府)やさまざまな保険者によって医療の質に連動した成果型報酬を拡大させようとする動きが盛んである。そして医療の質を評価するための指標としては、臨床
成績や医療安全、経営効率などの供給者サイドの指標だけで評価するのは不十分であり、利用者の視点による評価=「患者満足度」が30~50%程度のウェイトを占めるような評価方法が一般的に採用されている。すなわち、「患者満足度が高いほど医師や病院の収入が増える」という経済メカニズムができつつあるのだ。

もちろんここで使用される患者満足度は医療機関が独自で調査したデータではなく、第三者機関による客観性の高い評価指標が採用されており、連邦政府が主導するHCARPS(病院の質的評価プログラム)の中で標準的な患者満足度調査モデルが検討され、全米4,000 病院の参加のもとに調査データの収集と評価が始まっている。

米国のような医療の市場化による弊害は十分認識しているつもりだが、筆者は現在の日本の医療制度のもとでは、医療の質を高めるための経済的インセンティブがまったく働かないことに大きな問題があると考えている。通常の製品やサービスであれば、品質の良いものであれば市場に受け入れられて経済的に潤う仕組みがある。医療制度や医療経済の社会システムにおいても同様に、正しいことや良いことをやっている人が適正に評価されるような制度設計が必要である。医療経済学者の間でも、「診療報酬と医療の質との間に適正な関係があることが納得でき、公開された情報によって自分で医療機関を選ぶことができる仕組みを整備することが重要だ」(井伊雅子 一橋大学国際・公共政策大学院教授)とする声は広がりつつある。

日本ではこれまで、質の高い医療を提供しようとすればするほどコストがかかり、利益が減ってしまうというジレンマを医療機関の経営者は抱えてきた。しかし、日本の社会保障制度が大きな変革期を迎える中で、限られた財源の中でより質の高い医療を求める社会からの要請に応えるためにも、地域医療のレベルに応じて適正に医療資源を配分したり、医療機関毎の診療報酬に質的評価を反映させるなど、経済的なインセンティブを導入することは不可欠である。今年の診療報酬改定で一旦廃止されたものの、手術の症例数によって診療報酬に格差を設けるなど、日本の中医協でも医療の質と診療報酬とを連動させる検討を進めていることは明らかだが、医療の質を評価する上で最重視されるべき指標こそ「患者満足度」だと考えてもよいのではないだろうか。

このような意味で、国立保健医療科学院の長谷川敏彦政策科学部長が中心となって進めている患者満足度調査プロジェクトは注目に値する。これは、厚生労働省の科研費を使った「臨床指標を用いた医療の質向上に関する国際共同研究」の一環で2004年度からの3ヵ年計画で実施されており、国立病院、国立大学病院、労災病院、日赤病院、社会保険病院などの公的病院200 病院以上が参加してスタートし、昨年からは一部の大手民間病院も参加している大規模調査事業である。臨床指標や医療安全だけではなく、患者満足度を医療の質の評価指標とする診療報酬制度が日本でも意外と早く導入される可能性も否定できない。

 

ケアレビュー社のビジョン

ケアレビュー社は、「医療界の視聴率調査会社を目指す」という風変わりな目標を持っている。テレビの視聴率というのは番組の質を表すだけでなく、スポンサーからの広告料が決まるなど経済的にも大きな影響を持っている。そのために視聴率は中立的な調査会社が厳格な基準で調査し、一般にも公表されている。ところが、日本の医療界には現在のところそのような客観的で公正なモノサシは存在していない。巷には『良い病院ランキング』などの情報が氾濫しているが、調査内容に対する信頼性や客観性に問題があるという理由から、医療者の中でこれらの情報を信じている人はほとんどいないというのが現状である。

私たちは、医療分野に特化した満足度ベンチマーキングを通して、医療機関が提供する医療の質の向上に貢献するとともに、医療機関が質を高めるための努力を行うことに対して経済的にも動機付けられるような、信頼性の高い仕組みを構築していきたいと考えている。

2006年06月01日 category : メディア掲載 
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